フルートのリッププレートに彫刻を依頼される事は多々あるのだけれど、初めてアルトフルートにお目にかかった。ちょっと大きくて一瞬オオッと思ったけれど、リッププレートの大きさは一緒で馴染みがあった。偶然だけど、メーカーは前回と同じくミヤザワフルートだ。

 このアルトフルートのオーナーさんは、建築士をされてる男性だった。仕事がらデザインにはオリジナリティを求められる。今回のご要望も、他にないオリジナルの絵柄を入れたいという強いご希望があった。そのご要望のポイントは下記3点。
 1.他にはないオリジナリティが欲しい
 2.モチーフとしては『鳳凰』を入れたい
 3.彫刻で滑り止めの機能が欲しい



 なんと、ご希望のモチーフは花や植物ではなくて『鳳凰』だった。
 実は『鳳凰』に関しては既に資料をかなり集めていた。というのも、先に仲の良い音楽評論家さんから、MacBookに『鳳凰』を彫ってという依頼をいただいていたからだ。でも、僕自身のMacBookを事前の試しで彫ってみた結果、思ったより天板が硬くて、彫刻刀の刃が滑ってしまう事が判明して中断していた。そちらの案件は、デザインは一旦終わっているけど、もっと硬い刃の彫刻刀ができたら再開する。

 さて、今回は初めてのモチーフでもあるので、事前にラフラフなデザインを決めたくてメールでやりとりをした。狭いリッププレートに『鳳凰』となると、かなり線の数を少なくする事と、全体のレイアウトとポイントを明確にする必要がある。
 ご要望を伺い、ラフを下記2案描いて送った結果、左の案の方向性で行く事になった。

 さて、受け渡しは最寄駅までお越しいただいて、いつもの喫茶店でお茶しながら。
 オーナーさんの音楽活動を伺ったり、好みもしっかりインプットした。やっぱり建築家の方はデザインや絵にも造詣があって、方向性も明確に打ち出されるものだと感じた。それに、やはり強い男のイメージを感じた。

 前述の『鳳凰』の絵柄をご希望だった音楽評論家さんは女性で、『鳳凰』の雰囲気も可憐で華やかなイメージがあったのだけれど、今回は全く異なる雰囲気になるはず。という事で、やっぱりもう一回おさらいして資料を集め直す事にした。
 そして、新しく製作していた硬い素材の彫刻刀の一部をお初で使ってみる事にした。



 今回は初めての『鳳凰』だし、この狭いエリアでどこまで表現できるかハードルが高かったのだけれど、常にドキドキを感じるチャレンジングで面白い仕事となった。

 まず最初に、リッププレートの現物に下絵を描く段階で、ラフよりもっと力強さが欲しくなったので、全体のレイアウトを練り直した。
 次に、中心となる部分を最初に決めていけるように、ポイントとなる線を彫っていった。そこから他の線をどう展開するかが微妙に変化してくる。線の太さも影響するし、彫りながら線を少なくしたり、追加したりが生じる。
 アクセントに入れようと思っていたキラキラ輝く星に関しては、最後に考えてみたけど、無い方がオーナーさんのイメージに合いそうだったので削除。
 そして、なんとか完成!
 結構悩み抜いたので、出来上がったのはお渡し日の前日夜だった。後は、オーナーさんに気に入っていただけるかが一番大事だ。

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 翌日は、また最寄駅の喫茶店までお越しいただいた。やっぱりコーヒーを急いで頼んで、ケースごとササっとお渡ししたが、オーナーさんもドキドキされてるみたい。

 オーナーさんがケースを開け、頭部管をサッと取り出してジッと見始める。結構長い。
 「うわっ、細かい」と言葉を発してはまたじっくり見る、というルーチンが何度か繰り返された。

 そして、出てきた言葉は、
 「森脇さんに頼んで良かったです。」
 「こんな細かく彫れるとは思わなかった。目も足もわかるし。」
 「彫刻のところがちょっとだけザラッとして、いい感じです。」
 「このアルトフルートは形は他のと一緒なので、今までは何か他と違うところが欲しいと思っていたのですが、これでやっと僕だけの楽器という愛着が強く湧いてきました!」

 良かった、良かった〜〜〜〜〜!
 初めて『鳳凰』を彫ったゆえの辿々しさみたいなのもあるけど、これも今現在の僕の全力だ。これから彫っていくうちにどんどん変化していくと思うけど、この熱量は後から見ても感じれるだろう。さらに高みを目指して、一彫入魂だ!