今回は、フルートのリッププレートに加えて、両指の当たる部分にも彫刻をというオーダーだった。
 僕の場合はサックスしか吹けないので、フルート吹きの方のお気持ちは察するしかない。でも以前聞いた話では、ステージ上で照明があたっていたり演奏時間が長くなってくると、汗が出てきて滑りやすくなるそうだ。 だから、見た目に飾りが加わるのと同時に滑り止め効果があるのは一挙両得みたいね。

 楽器は、三響フルートのAg950という総銀製フルート。オーナーさんが高校生の時にご両親に買ってもらってからずっと大切にされてきた楽器だそうだ。
 実は当時から彫刻を入れたいという思いが密かにあったそうだけれど、大人になってから『やっぱり彫刻いれたい!私のフルートをもっと可愛くしたい!』という思いが募ってきたとの事だった。

 そして、ご希望のモチーフは『桜』。デザインは森脇にお任せという事だったので、後はご本人とお話しをさせていただいてイメージを作り上げるべし!

 という事で、後日ZOOMで打ち合わせをさせていただいた。
 ご本人は社会人となった今は楽団で演奏を楽しまれていて、ジブリの曲がお好きとの事。初めてソロを吹いたのは『となりのトトロ』だそうで、思い出もひとしおのようだった。

 いよいよ楽器が届きましたよ。
 両手の指の当たるところにはマーキングしていただいたので、位置もバッチリわかります。

 ひとまずリッププレートは後回しにして、まずは胴部管の両指の当たるところから始めてみよう。

 出来上がりました。
 自分でも指の当たり具合を確かめてみる。手の大きさや形は違うだろうけど、まずは大丈夫でしょう。

 そして、次はリッププレート。

 ここは、オーナーさんとzoomで打ち合わせた時の印象をベースに、可憐な感じになればいいなと彫ってみた。

 桜の花が咲き誇り、『幸運の知らせ』の象徴たる蝶々が舞い降り、右肩上がりに連なっていくイメージ。


 さあ、どうですかね? 早速オーナーさんに返送しましょ。

 2日後、メールが届きました。

昨日、フルートが届きました。

ケースを開けた瞬間、「かわいい!!!」と大喜びしました。

唇や指の当たり具合も全く気になりません。特に指の部分は、滑り止めとなりフルートがずれる心配がなくなって嬉しいです。音も彫刻前と変わらずです。

素敵な彫刻をしていただけたことで、よりフルートが大好きになりました。

ありがとうございました。

 よっしゃあ〜、とホッとする私。この瞬間が嬉しくて彫刻が続いていると言っても過言ではない。