最近はフルートのリッププレートに彫刻のご依頼をいただく事が多い。オリジナル絵柄と、彫刻による滑り止め効果の両方の希望があるみたいだ。
今回のオーナーさんは吹奏楽やオーケストラで活動されてる方。そしてメンデルスゾーン以降のバイオリン協奏曲やフルート協奏曲をよく演奏し、聴かれるとのことだった。でも僕は、ジャズ、ファンク、フュージョン、ディープ・ハウス、ポップスなどをよく聴いてはいるが、クラシックは門外漢。なので、これを機会にまずはメンデルスゾーンから聴いてみる事にしよう。
さて彫刻を施すパーツに関してだが、今回はリッププレートだけじゃなくて、頭部管にも彫刻を施したいという事だった。さらに、リッププレートと頭部管の絵柄が別ものではなく繋がっているようなデザインがいいとのご希望もいただいた。これは今までにないリクエストで面白い。
その絵柄のモチーフとしては木蓮がご希望だった。
なぜ木蓮なのかと尋ねたところ、「小学生の頃から通学路に必ずどこかの家の庭先に植えてあり、白く大きな花が印象的で、なんの花なのか母に尋ねたことがあり、それから好きになりました。」との事。
あの白く繊細な雰囲気の木蓮に、小さい頃からのお母さんとの想い出がつまっているのだ。
ところが僕のイメージの中では、木蓮は白くて綺麗な花がいっぱい咲いているなあ位で、具体的にどんな花だったか明確ではない。ここはグーグル先生やピンタレスト博士の助けを借りて、いろんな写真で勉強するしかない。正面から見た絵が欲しいのだけれど、下のように横からの写真が多くて難しかった。
ちなみに、花弁が9枚に見えるけれど、実は花弁が6枚でその下にある3枚は『がく片』らしい。花びら自体の形は若干クネっている事が多いが、彫刻でクネらせると表現でききらずに美しさを損ねそうな気がするので、ほとんどピンとしてて、たまにクネっている位にしておこうと思う。
さあ、始めましょう!
まずは彫刻刀の刃を研ぎ上げる。
フルートのリップを彫るためには細密彫りが必要なため、この研磨作業は特に重要で、刃の角度を調整し直し、鏡面仕上げにする。
彫刻前の銀製のフルートはお手入れもされていて綺麗な状態だ。
まずは中心となるリッププレートから彫り始める。他のエリアは保護テープでぐるぐる巻きにしてと。
リッププレートはパーツが小さいので、その中で成り立つ絵柄にしようとするとどうしても細密な彫り方になるし、すぐそばにトーンホールが空いているので、絶対に傷つけられないというプレッシャーが大きい。今のところ最も緊張度の高まる対象だ。
なんとか彫り上げて、次は頭部管胴体だ。こんどは彫ったばかりのリッププレートを保護テープで養生して彫り進める。
リッププレートと連なるイメージをいくつかのパターンで検討したが、結果としては、左下から右上に流れていくような全体イメージの中で考えていった。
その中で、リッププレートの中の絵柄の大きさと頭部管胴体のバランスを考え、リッププレートのすぐ右側にメインとなる花をもってきた。
特にご要望はなかったけれど、蝶々にも飛んでもらった。
私の彫刻の特徴でもあるが、見る角度を変えると異なる風景が展開するようにしたいので、ぐるっと回して見ないと全景は把握できない。
全体イメージとしては、オーナーさんからは木蓮の花が咲き乱れる風景が見えていて、観客からは「何かはいってるぞ?」という感じに見えるようにしてある。これはオーナーだからこその特典なのだ。
さあ、出来上がりましたよ。早速送りましょう。
後日、オーナーさんからメールをいただきました。
こんにちは
先程、到着し確認させていただきました。本当に素敵です!
蝶のモチーフもお願いすればよかったなと思っていたところ、蝶のモチーフも入っており、びっくり致しました!
彫刻の質感はこういう風になるのですね。フルートにとっては滑り止めになりそうな質感で、吹いていて安心感がありそうです!
今後、胴部管、足部管にもお願いするかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
はあ〜、蝶々いれて良かった! どうやら苦手な人もいるみたいなので安心した。
一応、胴部管、足部管にも繋げられるようにイメージしているので、後が楽しみだ。