約20年前になるが、サックスに龍を彫ろうと思い立った事があって、結果としてソプラノ・アルト・テナー各1本づつ彫らせていただいた。

『龍』というと、私にとっては自然神的な存在であって、軽々しく扱えない気がしている。が、まず最初の難関は、本物を見た事が無いという事。(笑)
やむなく、いろんな文献やら、過去の名人作の絵や彫刻を見たりするのだが、やっぱり難しいなあ。上野の上野東照宮の唐門にある左甚五郎作の龍の彫刻や、いろんな神社の龍神等を見て回って、なんとか下絵を描いてみた。
とても満足いくようなものではなくて、恥ずかしいばかりだけれど、その時点での全力で実力だからしょうがない。

いろいろ龍に関する伝説も調べた覚えがあって、五本指の龍が宝を持っている絵を描いたが、実際に彫った際は如意宝珠にしたかもしれない。如意宝珠というのは、上部が円錐状になっている玉で、『意のままに願いをかなえる』と言われている。

それに、右手にはサックスを持っていて、全体的にはト音記号のようなイメージの身のくねり方にしたような記憶なのだけれど、今見るとト音記号でもないなあ。全体的には、手足に張りがあって、若いかわいい感じになってしまった。全く怖さはなくて。まあこれはこれでいいか。

3本のうち、アルトサックスに彫った写真は残っていた。龍だけだと、全体の構図設計ができあがらないので、桜も一緒に彫っている。
ベル本体の他に、ネックやベル先も桜が入っているけど、僕には珍しく、U字管や2番管(キーがついているテーパー管)も彫っているなあ。へえ〜、と我ながら不思議。
というのも、2番管はキーがいっぱいついているため、全体のバランスから考えて、彫刻を入れるとトゥーマッチな感じがしているからだ。
この楽器に関しては、なぜかそれほど違和感がしないのは、龍の存在感が大きくてU字管まではみ出しいる事。そこから派生する桜がネックまで連なっている事。かなり多めに入っているけど、そこかしこに設けてある空白の部分でバランスをとっている事かな。

ASax_dragon1
Sax_龍1
ASax_dragon2
Sax_龍2
ASax_dragon3
Sax_龍3
ASax_dragon5
Sax_龍5
ASax_dragon4
Sax_龍4

今振り返ってみると、ほう〜こんな風に彫ってたんか〜と思う。今だったら、どんな風になるかな〜などと想像もする。
ただ、通常の絵柄の10倍くらい時間がかかるので、もう2度と彫るチャンスは巡ってこない可能性が高いなと思う。もし何かご縁があったら張り切って頑張りたいが、そんな時が来るかな?