以前に一度『藤の花』の彫刻をオーダーいただいた事があったのだけれど、今回はそれをご覧になった方からのご依頼。

 楽器はアルトサックス(SELMERのSUPREME)のネック。先日ゴールドプレートをかけられたばかりで、そこにオリジナル彫刻をいれたいというご希望だった。

 事前にZOOMで打ち合わせができ、ご希望以外にも普段の活動などをいろいろと根掘り葉掘り伺ってみた。
 オーナーさんは社会人吹奏楽団に所属されていて、クラシック・ポップス・ジャズなど様々なジャンルの音楽を演奏されているとの事。
 彫刻の絵柄については、『藤の花』をメインモチーフにしたいというご希望だった。さらに、イニシャルの『N K』を隠し文字で入れたいとも。
 雰囲気の方向性としては派手なのより可愛い方が好きだそうで、ネック全体にゴテゴテに彫刻が入っているのは好みではないようだった。それは僕も同じなのでやりやすい。

 僕の中の『藤の花』のイメージは、藤棚を遠目に見た際の美しい光景だ。でも近くで花の形を見るとだいぶイメージが違って、ちょっとグロテスクな感じさえある。

 今回は、遠目の房がいっぱい垂れ下がっている時の雰囲気と、近くで見た時の花びらの形を自分流にアレンジしてみたい。

 まずは彫刻刀を研ぐ。やっぱりネックのように小さいアールの曲面は滑りやすく、刃を研ぎ澄ませておかないと不安になるのだ。

 さあ彫りましょう!
 といつものように、下絵を描いては消してという風な試行錯誤を経て、ちょっとづつ進んでいった。

 まず、イニシャル『N K』を左面(自分によく見える側)後方に置き、全体のエネルギーの流れの起点とした。
 ただ、この『N K』をあまり隠さないで飾り文字的な見え方にしてみたので、オーナーさんのご希望にあっていれば嬉しいのだけれど、どうかな?

 そして、全体的にははっきりした線で構成しているのだけれど、藤棚からたくさんの藤の花が垂れ下がる雰囲気のイメージで、ところどころ細かく繊細な雰囲気を感じられる線をいれてみた。

 もう一つ、蝶々にも飛んでもらいました。事前にオーナーさんに確認したところ、本物の蝶はあまり好きではないけど、絵柄としては綺麗で好きとの事だったので。

 そこから上面を連ねて右側前方への流れを作る。

 右面前方に密度高く藤の花の寄りの絵柄を持ってきた。

 前面には、オクターブキーが被さって三角窓的な隙間ができるので、ここに藤の花が流れてきて、ワンポイントで蝶々がアクセントとなる計算。

 さあ、オクターブキーをつけてみましょう。どうなりますか。

 さあ、できましたよ! 早速、宅急便で返送。後日、メールが届きました。

こんにちは♬.゚
ただいまネック受け取りました!!
箱を開けるのにこんなにドキドキワクワクしたことありませんでした(笑)
出てくるまでの緊張感初めての感覚…
彫刻が見えた瞬間にとても感動しました💫💫
素敵すぎます•¨*•.¸¸♬︎そして🦋かわいいです。
何回も何回も見てます!!
美しい✨私だけのネックテンション爆上がりです。
楽器早く吹きたい気分です🎷🎶
練習も楽しくなること間違いなしです。
森脇さんにお願いして本当に良かったです!
ありがとうございました♪

 イニシャルがあまり隠し文字になってない事についても確認してみた。

「いやぁー本当に素晴らしいネックにしていただきありがとうございました⸜(ˊᗜˋ)⸝
イニシャルも逆にあのくらいにしていただいて良かったです✩.*˚

 良かった〜!!! これで思い残すところはないね。
 『藤の花』の表現については、まだいろいろな方法がありそうな気がする。
 面白いね。