今回は、わざわざ名古屋からお越しいただいて、色々とご希望を伺った。
高校時代に初めてご両親に買っていただいた大切なトランペットを、とても大事そうに抱えていらっしゃった。
若い女性で、着物の華やかな百花繚乱の和柄がお好きとの事だった。
そして、彫刻もお好きとの事で、その百花繚乱の様をご自身の愛器にも刻みたいというご希望だった。お好きな絵柄のサンプル画像も何枚かいただいた。

そもそも着物の和柄をあまりじっくり見た事がなかったので、さあどんな絵柄なのかなと思っていろいろ調べてみた。
ほ〜ほうほう〜、やっぱり伝統の絵柄というのは素晴らしいもので、長年職人さん達が精魂込めて創り上げたものはもの凄いデザインだし完成度だ。目の保養になるなあ。
さあ、僕がどこまで近づいていけるのかというところだけど、これを機会に新たな彫り方にもトライしてみよう。頑張る。

お好きな花をいくつか挙げていただいた。
「薔薇」「椿」「牡丹」「桜」「藤の花」の5種類。
これらの花をレイアウトしてみる。
僕の感覚では、空白の部分も絵柄の要素なので、隙間無しに彫る事はしない。やっぱり、中心にこの花とあの花が咲き誇っていて、その周囲のこっちの方から桜の花が流れてきて、あちらの方まで続いて行く、というような流れを作っていった。
でも、どうしても藤の花を活かしていれられないので、ご相談のうえで、この花は抜きで進めた。藤の花はちょっと引きの絵柄でいっぱいの花が咲いている風景が美しいけど、今回その部分を桜が既に担っているので、バッティングしていたからだ。
ということで、全体の構成をざっくりと決めて、ベル前面を中心の構成を固めて、さらにその最も中心部とわずかな周辺を最初に彫った。今まで使ってこなかったタッチにもトライしてみたいし、この雰囲気で他の部分をまた変えるかもしれない。

なんとか、コアのところを彫り上げる事ができたので、ここから全体に広げていく。多少構成をアレンジし直して彫っていった。

いつも思うのだけれど、トランペットは写真を撮るのが難しい。曲面が凹面でアールがきついので、全貌の雰囲気はほぼ伝わらない。実物はぐるっと回して見ていくとその流れがわかるのだけれど、写真はなあ。動画を撮ればいいのかな。

さあベル本体が彫り終わったら、その花の中でも桜のエネルギーがベル先まで繋がっている雰囲気で彫っていこう。

そして、最後は桜の花びらと、どうしても僕が入れておきたい隠しハートのマークをポチッとレイアウト。

今回は簡単な絵柄ではなくて、予想より時間がかなりかかってしまって、納期を若干遅らせていただく事になってしまった。
当初、受け取りもわざわざ名古屋からいらっしゃるとの事だったのだけれど、宅急便で送らせていただく事になった。
仕上がりに満足いただけるのかどうか、またまたこれがドキドキするのだ。

2日後に連絡が届いた〜、果たしてどうなの〜!

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こんにちは。
先程、中身を確認致しました!
思っていたよりも更に豪華に、繊細に好きな花達を彫っていただいて、想像のさらに上をいくものだったので本当に預けてよかったなぁと…
一緒に見ていた家族からも歓声が上がっていました!
本当にありがとうございます!!
あまりに感動したので、まずはお礼をと思いまして連絡いたしました。
これからこの相棒と演奏していくのがより一層楽しみになりました!!
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追伸
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間近で見た祖母は「え!手彫り?!」と驚いていました。
昨日はレッスンだったのですが、ケース開けた瞬間に先生から「わ!かっこいい!!」と言ってもらえました!
先生からもすごいなぁ〜!と言ってもらえて、
またさらに嬉しくなりました!笑
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はあ〜良かった〜!!!!!!!!!!
気に入ってもらえて良かった〜〜。
それに、「この相棒と演奏していくのがより一層楽しみになった」って、なんて嬉しい言葉でしょうね。

百花繚乱という言葉は、「いろいろの花がはなやかに咲き乱れる」「すぐれた業績や人物が一時期に数多く現れる」という意味を持つ。
音楽そのものも、自分も華やかになるけど、周囲の人まで明るくできる力を持つ。そんな楽器に彫刻できるなんて、なんて素晴らしい仕事だろうと、またまた嬉しくなってしまうけど、これからもさらに腕も磨いてセンスも磨いて、2つも3つも上の段階に行かねばと思う。道ははるかに遠い。