今回のオーダーは、トランペットにオリジナル彫刻。

そもそも、トランペットは彫刻がなくても美しい楽器だ。そのせいか、ワンポイントの絵柄でも成りたつし、広めに入れても成りたつし、いろんなバランスがある。なんとなくTシャツに似ているかもしれない。

一方、メーカー品で予め彫刻の入っているモデルもある。よく見るものは、ベル上面に細長〜く、ほぼ左右対象の絵柄で入っている。

事前にメールでご本人のデザイン嗜好を尋ねてみたところ、そんなメーカー品の彫刻のようにガッツリ入っているのは気が引けるので避けたいとの事だった。ちょっと控えめに見えるけれど、他にない自分だけの個性的でセンスの良いデザインが欲しいなというご要望だった。

これだけだと、どんな方向のデザインセンスが好きなのか的が絞れない。もうちょっとご本人の印象や一般的にどんな物が好きなのかをインプットしたくて、電話で会話させていただいた。

まずは、人と同じものではなく、自分だけの個性的なものがお好きとのことだった。自動車で言うと、日本車・ドイツ車・アメ車ではなく、フランス車だそうだ。いろいろお話しているうちに、なんとなくイメージが浮かんできたので、ラフ画を描いて送ることにした。

絵柄は植物柄をベースで考える。レイアウト的には、パッと見にちょっと控えめに見せたいというご要望もあるので、上からや横からや、一方向から見ても一度に全貌が見えないように考えた。ぐるっと回すともちろんわかるのだけれど、それは本人がじっくり見る際のお楽しみというところでもある。また他の人にはないオリジナリティの核として、ご本人のイニシャル「S」と「K」を隠し文字にして入れている。ベル先にもちょっぴり追加で余韻を入れた。もう一つのご希望要素として、星印「★」を大と小の2個並べる。これは、ご本人とお嬢さんの象徴とのこと。父親の気持ちは僕にもよくわかる。

ご本人に方向性を確認したところ、「めちゃセンス良くできそう!」と好評。多少の位置変更をしたり、★の位置を本体に移動したりと微修正して、下絵は完了だ。

さあ楽器が届いた。ピストンボタンは青色のスペシャルなのが入っていて、こんなところもご本人のオリジナリティが欲しいという気持ちが溢れている。

やっぱり実際の楽器を手にしてみると、ラフ画のままだとバランスがうまくとれない部分が出てきた。イメージはそのままに若干修正が必要で、イニシャルと★をロゴマークの上側に移した。

いよいよ彫り始めたのだけれど、すぐに『今日は調子ええ〜!』と感じた。彫ってる感覚がイメージにぴったり合ってる。過去、日によっては逆に『どうも思ったように彫れない』と思う時もあって、よっぽどの時は作業を中止するのだけれど、調子の良い時はなんだか楽しい。

という事で、まずまずの出来上がりになったのではないかな。

イニシャル「S」と「K」もうまく隠れて入った。

単純に上面から見た印象も、メーカー品のようなどか〜んと彫刻入ってますというイメージは避けれたんじゃないかな。

今回は滋賀県の方だったので、宅急便で返送。明日にはオーナーの反応がわかる。いくら自分が精一杯の仕事をしたところで、お客様次第のところがあるので、これまた緊張の1日なのだ。

翌日、早速電話があり、凄く喜んでいただいた。
ちなみに、音に関しても変化はないとの事だった。これは過去いろんな方にお伺いしてきたけれど、ほぼ同じ意見。あるプロ奏者の方のみ、本人にのみわかる小さいレベルのザラっとした成分が入る変化はあるかもしれないけど、嫌な感じはなくてその方にとっては好ましい方向という意見はあった。
よ〜し、無事完了!!!