サックスのほとんどの機種は、本体に既にメーカーの彫刻が入っているのだけれど、ネックには入ってない機種が多い。だからここにオーナーさんの個性をちょこっと盛り込んで彫刻を入れる事ができる。位置的には非常によく目に入ってくる部位なので、自然と自分と楽器の繋がりが非常に濃いものになっていくんだよね。
今回のご希望は、アルトサックスのネックに彫刻をいれ、さらにプラチナメッキをかけたいとの事。ちなみに、ラッカー剥離やバフ研磨、さらにメッキについては秋田県の管楽器専門店「Klang」さんにお願いされているそうだった。Klangさんとは二回目のコラボレーションだ。
ご希望のメインモチーフは、『チューリップ』だった。オーナーさんは、チューリップの可愛さと可憐さがとてもお好きらしい。一輪咲いているだけで、パアッと華やかさが産まれるしね。 それに加えて、ご自身のイニシャル『y』を隠し文字で入れたいというご希望もあった。
そしてもう一つ、全体デザインイメージに関して次のようなご要望もいただいた。『両脇それぞれ、シンプルな彫刻と彫刻多めのデザイン』がいい。
ほうほうほう!これは直接会話をして、『こんな事?それともあんなイメージ?』とかの話をしないとご希望が明確にならないな。
という事で、オーナーさんと電話で打ち合わせをさせていただいた。 まずはご要望の若干不明なところについて伺ってみる。
すると、『左右対称でばっちり別れるのは嫌』『オクターブキーの下に隠れる辺りも彫刻が欲しい』というご希望も出てきた。これはちょうど僕自身の好みにもあっている。元々左右で分けて考えてないし、左右対称でもないから。
念のために、ネックのどちらサイドにボリューム多めになっている方が良いか尋ねたら、吹く方向で見て左側との事だった。こちら側はサックスを置いた時でも持っている時でも自分に良く見える方なのでちょうどいい。
もう一つ、いつもはどんな活動をされてるのですか?とか、どんな音楽がお好きなんですか?とかをお尋ねした。
今回のオーナーさんは、小学校のオーケストラ部でクラリネットを演奏、中学校の吹奏楽部ではアルトサックスを演奏、そして今は社会人楽団に所属してアルトサックスでクラシックやジャズの演奏を楽しまれている。
一方、社会的に凄く必要とされている重要なお仕事に頑張ってトライされている事も伺って、とても感銘を受けた。
僕はただ単に何かの絵柄を彫刻しているという意識はなくて、ご希望のモチーフの中にオーナーさんのお人柄や想いを載せて彫刻しているので、こういうオーナーさんの人物像や趣味嗜好を共有する事はとても大事なのだ。
さあて、イメージが段々と湧いてきたので、後日ラフ画を描いて、全体イメージやボリューム配分などを確認してみた。
左面にチューリップが多めに咲いて華やかに、そして左面から上を通って右面への流れを作っていて、右面は若干抑えめ。イニシャル「y」の隠し文字は左面にだ。
ただ、左面のイニシャル「y」の隠し文字とチューリップからの流れにまだ工夫が必要な感じが残っているなあ。本来ならチューリップから気持ちよく唐草模様を展開したいんだけど、うまく繋げられない。なので、オーナーさんには実物を拝見した時点でレイアウトが変わる可能性がある事もお伝えしておいた。
オーナーさんからは全体的にはこれでOK。でも、前面のオクターブキーの下に三角地帯があるので、ここも彫って欲しいとご要望があった。そうか、昔のセルマーはここにパッチが貼ってあるけど今はなかった〜。という事で、若干レイアウトを変更する必要が出てきた。
さあ、いよいよネック実物が届いた!既にバフ研磨されて、コルクもオクターブキーも外されている。
このネック実物を見て頭の中でレイアウトが固まった。
いよいよ彫刻開始。まずは全体レイアウトの要となるフロントから彫り始める事にする。
イニシャル『y』の隠し文字。というより飾り文字的な扱いだ。
『y』というキャラクターを唐草模様で飾っているのだけれど、鳥の羽ばたき的なイメージにしてある。
オーナーさんがこれからも音楽と人生を楽しんで過ごされる事、そして素晴らしいお仕事にトライされ、多くの喜びが産まれていく事を象徴する、羽ばたくシンボルとして考えたので、フロントに存在させるしかなかった。
さてさて、左右は?
上から見ると?
左面はチューリップ多めからの唐草模様。そして左前から上を通って斜めの流れで右面後方に繋がっていく。さらに右面前方にはもう一つの小さな流れを作っておいた。
とまあこんな具合に出来上がったので、Klangさんに発送!
後日、プラチナメッキ後の写真をKlangさんにいただきましたよ。
そして、オーナーさんからもメールが届きました。
こんばんは!
本日加工が終了し、手元にネックが届きました!
想像よりも素敵でテンションがあがりました!
本当にありがとうございました!
隠し文字も、ここにきたかーーと思いながら、左右のデザインを繋ぐ大事な役割をしていることに気がつき、、
本当に素敵すぎます!
よしっ!喜んでいただけたようで嬉しい。
ちょっと美味しいコーヒーブレイクといきましょう!