毎回、オーナーさんからのご希望のモチーフとかイメージを伺うのだけれど、そのモチーフがどんな経緯で出てきたのかな?とかが気になる。
 特に理由はなくて、『ただこれが好きだから』であれば、それはそれでスッキリするけど、何か想い出や理由があればと伺っている。
 
 割とすぐに全体的イメージができあがる事もあるけど、大抵は『普段はどんな仕事(または学生さん)の方なのかな?』、『どんな音楽活動されてるのかな?』、『好きな音楽は?』とかを伺っているうちに、段々方向性が固まってくる。

今回のオーダーは

 今回のオーナーさんは、高校の吹奏楽部でアルトサックスを演奏していらっしゃる方だった。最近、不思議と学生さんからの要望が増えてきたな。

 彫刻をご希望の楽器は、YAMAHAのアルトサックス。
 新しいスターリングシルバーのネックに『紅葉と桜』の彫刻をご希望だった。もう一つご希望があって、彫刻後に金メッキをかけること。
 ちなみに、ここ数年前からの金の高騰で、金メッキ価格も大幅にアップしている。

 さて、今回オーナーさんの選ばれた『紅葉と桜』という2つのモチーフには、下記のような理由があった。

 『紅葉や桜のように優しい音を出す、という思いを込めたくて…また、春は「始め」、秋は「途中」というイメージがあり、終わりのない自らの進歩を目指す象徴にしたい!という思いもあり、紅葉と桜を選びました。』
  ボリュームは森脇さんの美しいと感じるぐらいでお願いします。またできれば「H.⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎」と名前も入れていただきたいです。金メッキ加工もお願いします。

 学生さんの文章とは思えない落ち着き。自分の学生時代のアホさ加減と比較すると驚愕だ。
 今回は、これでかなり明確にイメージが沸いてきた。
 『桜』は僕自身が追求するテーマでもあるし、美しいと感じるボリューム感を森脇にお任せとの事だったので、楽器に向かい合って湧き上がるインスピレーションに身を任せてみたい。

さあスタートですよ

 バフ掛け、金メッキ監修、コルク巻きなどは、いつものように石井管楽器さんにご協力いただく。まずはバフ掛けが終わって、細かいところまでピカピカの状態でやってきました。

 さて、彫刻のスタート。
 『桜』は全体を通したテーマを象徴するもので、移り変わりの途中に『紅葉』が存在すると捉えてみた。
 粗いレイアウトとして、右前面をスタート地点として『桜』が後ろの方かつ左右に広がっていく流れがあり、左面真ん中辺りの言わば途中地点に『紅葉』を置く事にする。

 すっぴんの写真を撮り忘れたので、いきなり作業途中の写真だ。既に保護テープを貼ってあるのでよくわからないけど、右面の前の方に流れのスタートとなる『桜』を彫った。

 次に左面の『紅葉』。そこから唐草模様を広げていくつもり。その唐草模様の中に紛れて、お名前が小さくこっそり入ってる感じにしてみよう。あえて崩したアルファベットで読みにくい感じで。

 さてさて、なんとか彫りあがりましたよ。
 すぐに石井管楽器さんに持ち込んで、金メッキ以降の工程を進めてもらう。

出来上がりはどうだ?

 石井さんから金メッキと最終仕上げが終わったよと連絡をいただいて、すぐに受け取りに行ってきた。どうですか〜?

 ちなみに、僕は余白を活かしたデザインが好きなんだけど、今までの自分の仕事の出来上がりを見るとちょっとボリューム多めかなと感じる事もある。それはそれで安心感があるから、別に悪いわけじゃないけど。
 でももっと大胆に削ってみると、結構ダイナミックで突き刺さるような印象が生まれるかもしれないと思ったりする事がある。

 今回はというと、ボリュームやレイアウトなど、『森脇にお任せ』というご依頼だったので、本当に感じるままに、安心できないギリギリでやってみた。
 ただし、金メッキがかかって、オクターブキーがついて、コルクも巻かれた状態では多少バランスが変わるはずで、それを想像しながら彫っている。
 だから、完成形を見るまで、それが正解だったのか?と一抹の不安が無きにしも非ずだったんだよね。

 でも、出来上がりを見てみると、バッチリだった。
 我ながら、絶妙なバランスで『桜』の流れと、『紅葉』の主張が成り立っているなあ、としばらく感動と共に見ておりました。彫刻の神様、楽器の神様ありがとうございますっ!
 でも、写真にはそれがわかるようには撮れなかった。残念。写真の腕がもうちょっとなんとかならんかな〜。
 さあ、オーナーさんに納品。
 後日、感想と写真をいただきました。

 ネックが無事届きました!!
 主張が激しいわけでも無いのに確かに咲いている…そんな桜と紅葉が美しく感動しました!!イニシャルも彫ってもらいありがとうございます!
 無事なんとか高校2年生に進級できました。このネックと共に部活を精一杯やっていきます!!
 本当にありがとうございました!!

 もひとつ、吹奏感や音色についても伺ってみました。

 総銀製だからか音がよくまとまり、低音の抵抗感が減り、高音の抵抗が増えて音のコントロールしやすくなりました。
 楽器が金メッキで元から重めの吹奏感で3年近くやっていたので今回のネックがラッカーだった時はどうも軽くて苦心していたのですが金メッキにしたら抵抗感も増して力を安心して預けられるようになりました。
 そこに森脇さんの彫刻が吹いているとちらっと視界に入りテンションが上がる…といった感じで、楽器を吹くのが今まで以上に楽しいです!!
 新たな相棒を完成させてくださりありがとうございました!!

 そうですか〜。良かった!
 やっぱり、楽器が吹くのが楽しくなるのはいいですなあ。