僕は社会人になってから、30歳頃にサックスを始めた。全くうまくはならなかったけど、音楽のお陰でそれまでにない様々な経験をできたことに感謝している。

 今回のオーナーさんは、52歳からヤマハ音楽教室でフルートを始められたそうだけれど、やはり音楽の楽しさが人生に彩りを添えているんじゃないかな。
 ご使用中のムラマツ製フルートはお父様が90歳で大往生された後に購入された楽器だそうだ。いわば形見のような思い出がこもっている。

 絵柄のご希望やモチーフに関しては、メールでのやりとりに加えて、電話でも複数回やりとりを重ね、ご希望をできるだけ吸い上げられるよう頑張ってみた。最終的には、リッププレートだけじゃなくて、下記のような要素を盛り込むことになった。
 ①リッププレートに唐草模様
 ②頭部管と胴部管の継ぎ目部分に唐草模様
  ・回転方向の合わせ位置がわかる印の役割もある
  ・お名前を入れる
 ③胴部管の右手親指のあたる部分に滑り止めの彫刻

 そして、これら全体に関わる気持ちとして、『派手でなく華やかすぎないように!』というご希望があった。あまり目立ちたくなくて、向こう側(客側)には見えなくていいそうな。なるほどね〜。珍しいけど、何となくわからんでもない。

 通常は何かの花をモチーフにいれる事が多い。すると絵柄全体の中心点ができ、トータルイメージとして伝わるものが明確に、そして華やかになる。
 でも今回は、目立ちたくないというご希望なので、花を入れないで唐草模様のみでいく事になった。ただ単に模様としての唐草模様ではなく、意図のある唐草模様にしなくては・・・・難しい。

 さあ届きましたよ。美しい楽器だ〜!

 まずはリッププレートから彫るので、他の部分を保護テープで養生する。

 単に模様の羅列にならないよう、全体のエネルギーの流れを感じながら、いろんな変化を加えていきたい。スタートするまでに結構な時間(日にち)を要してしまったが、なんとか唐草模様の全体コンセプトを考えついて、その流れに沿ってリッププレートを彫り上げる事ができた。

 さあて、次は頭部管ですよ。保護テープを巻き直します。

 胴部管との合わせ目を意識して下絵を描き、彫っていきます。

 次は胴部管にうつります。

 お客さんからは見えなくていいという事だから、頭部管の左上から胴部管の手前右下への流れを作っている。

 頭部管の右隅にこっそりとお名前を入れてと。左と右で合わせ目が繋がって、組み立てる際の目印になるようにしている。

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 さらに胴部管右側の方。右手親指の当たるところは写真で指示をいただいていたので、それに合わせて指が滑らないように細かく線を入れた。

 さあ、完成しました。どうですかねえ。
 過去、野葡萄の蔦のクルクルした感じの絵柄を彫らせていただいた事はあるのですが、それと僕の定番の葉を組み合わせた絵柄にしてみました。
 早速返送。後日、オーナーさんからお返事をいただきました。

先程フルートを受け取りました。
心を落ち着かせてからケースを開けました。
風を感じる素晴らしい彫刻に感動です!
名前も入れていただき頭部官と胴部菅のつなぎがとてもステキです。
親指の部分も可憐です。
本当にありがとうございました。
色々と注文内容が変わったり
目立たないようにとか、、、
私のリクエストに応えて頂きまして感謝です。
森脇様にお願いして本当に良かったです。
諦めていたフルートの彫刻を叶えてくださりありがとうございました。

 「右手親指の彫刻部分は滑らなくなりとても安定します。」とのお返事もいただいた。まずは良かった! 
 今までにない新しい雰囲気の唐草模様を作り出すのに苦労したけど、その分だけ身になる事があったように思う。常に、過去の自分を超えるようトライしなきゃ。