フルートに関しては、一般にスジ彫りと呼ばれる、一本線のような彫り方が主流だ。これは宝飾品の彫金の技術から来ているのだろう。逆に、サックスやトランペットでよく見られるギザギザの彫り方はめったに見られない。いったいこの彫り方はどこから発生したのだろう?

20年前頃、フルートの彫刻の依頼が来た時は、「僕の彫り方はスジ彫りではなくて、ギザギザ彫りなんですが、いいんですか?」と尋ねたりした記憶がある。

しかも、本体の指があたる辺りや、リッププレート上面のリップがあたる辺りに彫りたいという事だった。指やリップのあたる部分に彫ると、滑り止めとしての効果もあるらしい。

でも当時は、キーカップの周囲に模様の入っているものがあったが、本体やリッププレート上面の彫刻は見た事が無かった。今でこそ、あちらこちらのメーカーでリッププレート上面の彫刻はオプションでつけられるようになったみたいだけど。

このリッププレートの彫刻は、すぐそばに唄口の開口部があって、そこを傷つけると音が出なくなる危険性があるので、特に気をつける必要がある。そのうち続けて注文をいただくようになったが、中には24金のものもあったりして、価格がとんでもないので、緊張する事こうのうえない。

フルートには、ギザギザ彫りの粗い感じが合わない気がして、スジ彫りを覚えようかと思った事もあるけど、スジ彫りは製品が動かないようにクランプや万力で固定できないと彫れないため、部品の段階でないと使えなくて、組み立て後の製品には向かない事がわかった。

難しかったけど、今までのギザギザ彫りをさらに繊細に彫れるようにトライしたり、一本線を表現できるように工夫してみたりして、新たな線が彫れるようになったのは、大きな成果だった。

でも、機会があればスジ彫り、それも和彫りと洋彫りの両方にトライしたい。

Flute_桜
Flute_桜
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