今回は50代の男性からのご依頼だった。幼少から鍵盤楽器に触れてきたけど、40代後半で初めてサックスにトライされたという方だ。さらには、その姿に触発されて、お嬢さんも中学の吹奏楽部でサックスを始め、なんと一緒に演奏される事もあるそうだ。
なんて素晴らしい!!!!

ご要望はアルトサックスのネックに桜の彫刻を入れ、さらにその上に金メッキ処理をしたいとの事で、そのために新品のセルマーのネックを購入された。

最近のサックスは、ネックに予め彫刻が入っているモデルも増えてきたのだけれど、もちろん、彫刻のないモデルやオプションのネック単品も多いから、そんなネックに自分ならではの彫刻を加えるのも楽しいものだ。

まずは、コルクを外してラッカー剥離、さらに表面のバフ研磨までを、いつもお願いしているリペアマンの石井さんにお願いした。

1週間後に受け取って、いよいよ彫刻作業に入る。絵柄の希望については、『桜』がテーマのおまかせという事だったので、インスピレーションそのままで下絵を描いていく。事前にオーナーさんがどんな活動をされてるとか、お嬢さんと一緒に演奏している映像とかを拝見していたので、迷わずイメージが湧いてきて、彫刻までスムーズに進んでいった。

途中、オーナーさんからのご希望があって、お名前のイニシャル「K」を小さく入れる事になった。こういう自分ならではのポイントは愛着が湧く要因なので、できるだけご本人の希望に沿って、さらには期待を超える出来上がりになると嬉しい。

彫り上がったら、またリペアマンの石井さんに預ける。ここからは、再度表面を綺麗に整えてメッキ屋さんに出し、金メッキが済んで戻ってきたら最後にコルク巻を巻き直して最終チェックという工程だ。石井さんはプロの楽器も扱っているし、常に工夫をし続けている凄腕リペアマンなので信頼がおける。それに何度も連携してやっているので、もうあまり要望を言わなくても綺麗にあがってくるのがありがたい。

という事で、急いで梱包し、宅急便でオーナーさんに返送した。後は無事に着くかどうか、そして気に入っていただけるかどうかだ。
後日、メールが届いた。

ネック、到着いたしました。いま、仕事で非常に取り込み中なのですが、我慢できず開封だけして見てしまいました。イメージ通りというか、非常に細かい細工に改めて感動しました。ちゃんとKもありました。もっともっとお伝えしたいことがありますが、取り急ぎ着荷の連絡のみで失礼します。

よっしゃあ、まずは無事到着したし、印象は良さげだ。
後日、再度ご連絡いただいた。

セルマーは娘が吹奏楽部でも使っているので、使ってみるかと聞いてみたのですが、「あれは工芸品で、使うものじゃない」と言ってます。彫刻大好きの娘に取られるのを覚悟してましたが、想像以上だった様です。二人でルーペでまじまじと見ていますが、手彫りでここまで出来るのかと…….。私もメーカのエンジニアですので、こういった形状に精密加工を施す難しさは理解しているつもりです。本当にすばらしいものをありがとうございました。

気に入っていただけて、とても嬉しい、ありがたや〜。でもどんどん使って欲しい。それにしても、お嬢さんと同じ趣味があるっていいなあ。