珍しい個性的なトロンボーンへの彫刻依頼をいただいた。

アメリカの 『B.A.C.(Best American Craftsman)』というメーカーの製品で、ジャズトロンボーンの銘器『Earl Williams』のベルを使って、全面的にカスタマイズ・リビルドしたというトロンボーンだそうだ。どうもとても情熱を込めた製品づくりをしているカスタム・メーカーの一品のようだ。

見た目の特徴としては、ベルはノンラッカーで、先端は酸化皮膜で青黒い色になっている。通常はメーカーのロゴマークが入っている位置には刻印がなくて、根元あたりにシリアルナンバーなどが小さめに入っている。カスタマイズされた製品だなという雰囲気が漂っていて、只者じゃ無い佇まいだ。

オーナーさんがこの楽器を購入されたのは、東京のJoyBrassというトランペットとトロンボーンの専門楽器店。実は以前、こちらのスタッフさんのトロンボーンに彫刻をオーダーいただいた事がある(その時の記事はコチラ)。そのご縁でお店にも伺ったりしたのだけれど、豊富な種類のトロンボーンが置いてあるし、スタッフさんは丁寧だし楽器に詳しい。

今回はその時のベル本体(横)と同じようなエリアに彫刻を入れたいとの事だった。

今回のオーナーさんは、社会人バンドで演奏したり、ご自身で立ち上げたビッグバンドを運営されている方だった。ビッグバンドではスイングジャズを演奏されるそうで、エリアの若い人達が演奏する機会を作りたいとの事だった。

絵柄に関しては、ベル横とベル先端にビッグバンドの名前とネモフィラの花をモチーフに彫刻を入れたいとのご希望だった。ネットで調べたところ、ネモフィラに関してはひたちなか公園の風景で知っていたけど、いっぱい咲いている風景が綺麗だ。でも意外や意外、花びらの形は桜に似ている。生え方や色味は違うけど、シンプルなだけに逆に表現が難しそう。花言葉は「どこでも成功」「可憐」「あなたを許す」だそうだ。「どこでも成功」というのはビッグバンドの成功にも繋がるので、とても意味深い彫刻になる。

レイアウトの考え方や、モチーフをどの位のバランスで処理するかのおおまかな方向性を絞らないと、必ずしもご希望の方向にいかなくなる危険性をはらんでいると感じたので、いくつかラフを描いてみた。

ネモフィラをモチーフにするとして、それがポイント的に象徴的に入った場合と、全体的に散りばめられた感じと、どちらにするかの確認がひとつ。やっぱり花びらを全体的に散りばめるにはかなりの時間がかかるので、重要な点だ。

もう一つは、ビッグバンド名の「Jam」を入れるのだけれど、ロゴとしての見え方にもなってくるので、その表現の仕方が重要になってくる。どの位の目立ち方にするか、飾り文字にするかどうか、飾りをつけるとするとどのくらいのバランスでという確認をしたい。いつもオーナーさんのお名前をちょこんと入れる場合とは違って、考慮する要素は多い。

ちょっと微妙なニュアンスの確認もしたくて、今回は初の試みをしてみた。Zoomミーティングでの打ち合わせだ。

結果、細かい疑問点も確認できたし、なによりオーナーさんのお人柄や、いつもどんな演奏されてるのかとかのイメージが具体的になってよかった。レイアウトに関しては、ネモフィラの花を全体的に入れ、「Jam」は飾り文字にする事になった。ベル横は【2】、ベル先は【4】をベースに「Jam」がもうちょっと目立つようにしていく事にした。

ネモフィラは初めてなので、実際の楽器に彫る前に真鍮の板にいくつか試し彫りをしてみた。でも、なかなかイメージに近いものにならなくて、若干デフォルメして森脇風ネモフィラとする事にした。結果はいかに。

彫り終わって、すぐにヤマト宅急便で返送した。やっと彫れた〜という安心感と、さあ気に入っていただけるかなあ〜というドキドキ感がやってくる。数日後、お返事が届いた。

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おはようございます! 楽器が届きました!
ノンラッカーの楽器なので、どのくらい目立つのか気になっていたのですが、予想以上にはっきり彫刻が見え、大変満足しております。
1番楽しみにしていたベル先端ですが、とても感動しました。青黒いベルの中に金色の彫刻、かなり映えて見えます。
とてもオシャレな美しい楽器になりました。
私のバンド、メンバーへの想いをすべて彫刻で表現していただき、ありがとうございました。 元々、希少な楽器に森脇さんから彫刻をしていただき、唯一無二の自分だけの楽器になりました。
これからのバンド活動が楽しみです。
必ず、夢を叶えて大きなバンドになります。
この度はありがとうございました!
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私の方こそ、このスペシャルな楽器に彫刻する機会をいただけて、ありがとうございました!
喜んでいただけて、超嬉しい!
僕も昔ビッグバンドを立ち上げて運営していた時があって、そのみんなで喜びを共有できる事や人数が多い故の大変さも想像できるので、この相棒や仲間と一緒に音楽を楽しみ続けられるようにと、音楽と彫刻の神様にお願いしておこう。

さあ、まだまだ先を目指して一彫入魂だ!!