最近、学生さんからのオーダーが増えてきた。卒業記念にお父さんお母さんからのプレゼントという場合もあった。そんな気持ちが伝わると私としても自然と気合いが入るのだ。
今回ご依頼の楽器はBachのトランペットで、表面処理はシルバープレート。そして彫刻のモチーフには桜をご希望いただいた。桜は僕も大好きで、とてもウェルカムなモチーフだ。
オーナーさんのご希望は?
オーナーさんとは、ZOOMで顔を合わせて打ち合わせさせていただいた。好きな音楽、どんな音楽活動をされてるのか等を伺って、オーナーさんのお人柄も感じられる。この会話は非常に重要であり、かつ楽しい。
まずわかったのは、オーナーさんは学生さんで吹奏楽部に所属中。最高学年なので、今年9月の公演が吹奏楽部として最後の演奏になるそうだ。後日、過去の演奏風景の動画も送っていただいたので雰囲気は把握できた。
さて、彫刻の絵柄は『桜』をモチーフにというご要望だったが、参考までに地元の桜の写真もいただいた。川沿いの堤に桜並木が続いていて、ここを歩いたりする風景を思い浮かべられる。なんか金八先生のシーンに出てきそうだ。
好きな音楽を伺ったところ、「スピッツの『正夢』です!」と即答が返ってきた。ほう〜、人気のポップスグループだね。そしてこの曲を9月の最終公演で演奏されるそうだ。ところが残念な事に、僕はスピッツの『ロビンソン』を初め数曲は知ってるけど、『正夢』は知らなかった。これはまず聴いてみないとね。
どうしても盛り込みたいモチーフが出てきた
という事で、まずはスピッツの『正夢』を聴き直してみる。う〜ん、やっぱりいい曲だ〜。繰り返し聴いてみるのだけれど、特に下記歌詞が突き刺さってきた。
いつか正夢 君と会えたら
打ち明けてみたい 裏側まで
愛は必ず 最後に勝つだろう
そういうことにして 生きてゆける
あの キラキラの方へ登っていく
青春だわ〜。オーナーさんの高校生活に重ねて、さらに自分の高校生時代も思い出されて心にジーンとくるものがある。
正夢が叶うといいねえ。どうしてもモチーフに加えたい要素が出てきた。
そもそも、僕は今回のメインモチーフの桜に、『愛と幸せ』という意味を込めている。これは僕の音楽の神様デヴィッド・サンボーンに以前お会いした時に、’LOVE & HAPPINESS’という屋号を使わせてくださいとお願いすると同時に、今後の活動において約束した事でもある。
加えたい要素の一つ目は、歌詞の中では「会えた」とは言ってないのでどうなるかわからないのだが、願いが叶うといいね〜、という気持ち。
もう一つの要素は、歌詞の『キラキラ』を絵柄で具現化する事。あのキラキラの方へ登っていくだって。しびれるわあ。
さあ、彫りましょう!
最初に保護テープで彫らないところをグルグル巻きに養生してしまうのだが、写真撮り忘れた。
今回も、大体のレイアウトは頭の中に、そしてメインとなる桜の中心点から彫り始めた。中心エリアを彫り上げたら、そこからまた次のエリアを具体的に描いていく。この下絵が気に入るまで、何度も消しては描き直してという繰り返しだ。 昔は、一度に全体の下描きをしていたが、今はそんな風にインスピレーションの連鎖みたいな手順になっている。なので実際に彫っている時間よりも考えている時間の方が長くなってしまう。
という事でなんとか出来上がりましたよ。
2つの追加要素はどうなった?
さて、『正夢』の歌詞を読んでモチーフに加えたくなった2つの要素はどうなったのか?
まず一つ目、『いつか正夢 君と会えたら」という願いが叶いますようにという気持ちについては、『蝶々』が必要だった。最近特に好きになってきたこの蝶々というモチーフには、『幸運の訪れるお知らせ』という意味を込めて彫っている。
もう一つの要素は、『あの キラキラの方へ登っていく』というフレーズからのインスピレーションだ。
ベルの先端の方に『愛と幸せ』の象徴たる桜の花びらが舞い散っていく。そして、その先はキラキラのマークへと続き、さらにその先は音となって観客の方に伝わっていくという流れができた。
全体レイアウト
今回はベルの横面全体ではなく、ロゴマークを菱形に囲った限定エリアに彫刻している。このトランペットという楽器は、元々彫刻が無くても美しく、彫刻を入れて美しく成立するバランスがいくつも存在すると感じる。内容や密度を含めて複数の要素でバランスが変わってくるので面白い。
右側から見ると。
左側から見ると。
オーナーさんが楽器を構えた時の見え方はこんな感じ。
あのキラキラの方向へ音と想いを解き放っていただきたい。
できあがってすぐ宅急便で返送したが、さてオーナーさんはどうだったのか?後日メールを頂戴しました。
ロゴ上の小さな蝶やベル縁あたりのスパークルなど、桜に混ざっているアクセントがとても気に入りました。
特にスパークルは、吹いているときにまっすぐ目に飛び込んでくるようで吹いていてとても楽しいです。
依頼させていただいて本当に良かったと思っています。
ありがとうございました。
そうですか、そうですか。吹いていて楽しいとは最高じゃないですか。自分としても本当に嬉しい。
9月に予定している最後の吹奏楽公演では、愛器と一緒に思い切り楽しんでいただきたい。
はあ〜、良かった😊