先日、サックス奏者で友人の田野城寿男氏とコーヒーを飲みながらゆっくり話をする機会があったんだけど、彼の口から驚きの言葉が出て来た。

友「楽器に彫刻は必要なんだよ!」
私「へえ〜! なんで?どういう事?」
友「楽器に美しい彫刻が入ると、気持ちがあがるし、楽器への愛着が湧く。だから彫刻は必要なんだ!たとえ小さく部分的にでも、オリジナルな絵柄や名前が入っているという事は、自分だけの愛器という特別な印になるんだ!」

僕は彫刻師ながら、実は彫刻は絶対必要なものとは思っていなかった。なくても楽器の機能としては何も問題ないし、そもそも楽器は美しい。だからこんなに自身満々で言い切られると、目から鱗というか、ショックというか。彼はアーティストとしても素晴らしいし、そのオリジナリティをクインシー・ジョーンズから「おまえは誰にも似ていない」と評価された程の人だから、言葉に重みがある。

確かになあ。音楽そのものにも機能は求めてないけど、必要だなあ。音楽のない世界を想像すると、なんて味気なくつまらない事か。ファッションも、カッコいいと思える服を着ている時と、機能だけの作業着を着ている時は違うしなあ、などとグルグル頭は回る。
そう考えると、今まで自分の彫刻に対して自己評価が低かったんだなあ、ダメダメじゃんなどと気がついて、同時に彫刻の価値というか、彫刻が楽器そのものだけじゃなくて、その持ち主に対してどんな役目を担っているのかを再認識した。自分にとって重要な一日になった。

という事で、意識を新たにして、楽器全体の彫刻だけでなくて、例えば自分の名前や、イニシャルだけでも入れたり、さらにワンポイントでも自分ならではの絵柄を入れたりとか、そういう細かい事にも積極的に取り組んでいこうと思う。要する時間を考えると、価格もそんなに高くはならなくて、マウスピースを1本買う位の気持ちで自分だけの特別な愛器が手に入るというのは、ある意味リーズナブルな気もする。一彫入魂だ!

Tsax_Neck