今回はトランペットに彫刻の依頼。以前、サックスのネックの彫刻をいただいたお二人と同じ楽団の方。既にずっと愛用されてる楽器で、真鍮製の上にシルバープレートがかかっている。

わざわざお越しいただいて、いろいろお話を伺った。ご希望は、桜の花がメインで、イニシャルかお名前、そして静岡出身なので富士山をどこかに入れたいとの事。

振り返ってみると、トランペットに桜は初めてかもしれない。トランペットは彫刻がなくても造形美が成り立っていると感じる楽器だが、ポイント的に入れても、フルに入れても美しくなるバランスがあるので、絵柄を考えるのは面白い。ただし、フルに入れる場合、隙間無く絵柄を入れると仏壇のような趣になってしまうので、気をつける必要がある。

桜の絵柄は一つ一つの花びらを彫り上げるので、他の花よりかなり時間がかかるのだが、自分も好きなテーマなので非常に楽しく彫る事ができた。

名前をアルファベットで右横に入れるとピッタリな感じがするので、イニシャルを飾り文字で入れるのはやめて、シンプルなレイアウトを考えた。で、富士山をどうするか。富士山を入れるには、桜越しに遠くに富士山が見えるような遠近感的処理を考えてみたが、もう一つ、名前のバックに入れるのもいいかもしれない。ご本人のバックボーンという意味で。

後は、ベルの先に余韻をちょっと付け加え。さらに、いつもの遊び心で、ハートの花びらをいくつか散らして完了。

納品ギリギリに仕上がったが、非常に楽しく彫れた一本だった。数日後、再び依頼主にお会いしてケースごとお渡しした。この時は「はたして喜んでいただけるのか?」と非常にドキドキする。

一方で、依頼主もドキドキする〜とおっしゃっていたが、ケースを開けるや否や、ビックリしたような表情で固まってしまった。どうしたのか?
そして、トランペットを取り出すと、灯りに当てたり、ひっくり返したり、いろいろ眺めて、またケースにしまわれてしまった。そして一言。
「いやあ〜、想像を超えてました!」「びっくりしました!」「いつまでも見ていられます。」

この後、絵柄の話をひとしきりして分かれたのだけれど、その間にもう2回ケースから取り出して眺めている時間があった。

その日の夜、ご本人からメールで写真をいただいた。トランペットを眺めては興奮しながら写真を撮られたとの事。トランペットの写真は反射するものが多くて撮るのが難しいのだけれど、カーペットの上で奇麗に撮れている。

コメントもいただいた。
『想像以上に自分の楽器が美しくなり、大変感動しております!!特にオーダーしていた「富士山」ですが、静岡県民として、眺めるだけでより一層郷土愛を感じることができます。イニシャルも大変お気に入りです。』

依頼主の奥様は、同じ音楽大学出身の方だそうで、こんな彫刻でお金使ってと怒られなかったかなとちょっと心配で伺ってみた。
結果は、『妻は帰ってきて第一声、「楽器見せて!」でした。私と同等くらい喜んでおりました!自分より先にSNS(Twitter)にアップしていました笑』

音と吹奏感が彫刻前後で変化したかどうかも尋ねてみた。結果は・・・
『ここ数日使ってみての吹奏感ですが、全く今までと変化なく感じますが、多少ベルが軽くなった分、少し息を強く入れると、前よりパリッとした音が簡単に出せているように感じます。』

過去の依頼主と同じ方向性のお返事をいただいた。やはり、変化はあるはずだが、ほとんど影響なしと考えて良いだろう。最後に、下記の最も嬉しいお言葉をいただいた。
『お陰で、楽器が美しく愛着が湧き、より一層努力しよう!と思えるようになりました!!』

このために、さらに美しい彫刻を目指して努力をしなければと、心を引き締め直すのだ。一彫入魂!