楽器には、メーカーの正規品であれば大抵ロゴマークが入っている。それがロゴだけなのか、その周囲にマークや飾りが入っているかはメーカーによるのだけれど、今現在は手彫り彫刻まで入れてる製品は珍しいのかな。

トランペットだと、メーカーロゴの周りに簡単な飾りを一緒にプレス加工しているのがポピュラーか。今回は、その周囲にプラスして、オリジナルの彫刻を入れたいとのご希望だった。今まで、ベル横全体に彫る事が多かったのだけれど、ロゴ周りに集中したバランスを考える必要がある。

遠方からご足労いただいて、色々とご希望を伺った。学生さんで、IT関係が専門との事だったので、僕の9年使ったMacbookがとうとう壊れた事や、次をどうしようか逆に相談に乗っていただいたりして、さらにありがたや〜。

楽器自体は、以前はプロが使われていたものだそうで、色々と改造してあった。改造した跡がそのまま残っていたりするのだけれど、それでも美しさを感じる楽器で、佇まいというか存在感のある楽器だった。きっと腕のいい職人さんの仕事さろう。関係ないけれど、もう28年くらい前にサックスメーカーにいた頃に買った僕の2本目のサックスは、自分で施した改造だらけ、彫刻の練習跡だらけで汚くなりすぎて、上からブラックラッカーをかけて誤魔化した事がある。黒い歴史だ。

さて、ご希望はロゴ周りに絵柄を入れるのだけれど、ご希望の要素がいくつか存在する。まずは好きな花が、「彼岸花」「ポピー」「ユリ」。そして、大好きなアーティストのマークとイニシャルを何処かにアレンジして入れる事。話をしながら、その場でざっくりとした構図を描いていった。彫刻エリアを線で区切るわけではなく、なんとなく境目がこんな風に見えるように考えてみる。

さて後日、楽器に改めて向かい合って気がついた事があった。アーティストのマークは本人の許諾を得られないからダメだ。どうしよう〜。と思いつつオーナーさんに相談した。すると、なんと、友人の絵描きさんに自分用のマークを新たに作成してもらうそうだ。出来上がってきたのを見ると、イニシャルとトランペットを組み合わせたデザインになっていた。凄いね。これは合作のオリジナルになる。

今回は全体ではなくて、ロゴ周りの比較的狭い範囲なので、花の種類を3種類も入るかな?とも思ったが、なんとか入った。初めて彫る彼岸花は細い花びらを表現できるのか?と不安材料だったが、また新しいタッチを工夫する事でクリアできた。こういう初めての題材は不安と成長がペアで訪れる。

という事で納期ギリギリで出来上がった。後はご本人に気に入っていただけるかどうかだ。これが一番大事。だから一番ドキドキするんだな。

再度遠方からお越しいただいた。引渡しは、いつも使わせていただいている喫茶店で。コーヒーをまずは頼んだりするんだけど、心はケースの中身に。ちょっと挨拶をしてから、早速ケースを開けていただいた。どうだ?

第一声は、「ヤッベ!」
しばらく見て1回しまって、もう1回見て・・・・、「想像以上です!」

『よっしゃあ〜〜〜〜!』と私の心の声。はあ、よかった。
彫り終わってから、こんな彫り方もできたなとか、あんなデザインの考え方もあるなとか、次々とアイディアが湧いてくるので終わりがないのだけれど、今現在の全力で出来上がったので良しとしよう。