前回アップしたのは、アルトサックスのネックの彫刻のビフォア/アフター。https://loveandhappiness.jp/asax-neck-190629/
同じ方の依頼だけど、今回はテナーサックスのネックの彫刻のビフォア/アフター。違うのは彫刻後にピンクゴールドメッキをかけたいというオーダー。
僕は彫刻はできるけど、バフ掛け、メッキ処理、コルク巻き等はできない。
知り合いのリペアマンは遠方なのでどうしようかと思いつつ、ネットで探していたら、なんと〜ご近所にリペアマンがいらした!
複雑な行程ではないとはいっても、彫刻の深さとバフ掛けの度合いなどの相談もしたいし、今後のお付き合いも考えると、腕の良いリペアマンが望ましい。WEBの記事を拝見すると印象良さそうだが、と思いつつ一度お会いしてみた。
いろんな事を話してみた。リペアの考え方や手法はもちろん、楽器や音の特性、素材と音、熱処理の種類と音への影響、振動波の伝わり方や音響工学的な事などなど。何を話しても、ご自身の考えがあり、会話が楽しい一時だった。
広く深く研究されているし、楽器に対するアプローチやリペア実績もバッチリ。いろんな楽器のプロから信頼されてるのがわかる。ということで、石井管楽器さんにお願いする事にした。http://ishiikangakki.com/
さてさて、石井さんには面倒な事をお願いした。彫刻を入れる前にバフで8〜9割の粗磨きを入れ、彫刻後にバフ仕上げ磨きをもう一度入れてもらうという事だ。というのも、バフ磨きというのは金属素材の表面を削っているので、素材の厚みと共に彫刻も削ってしまうのだ。彫刻の深さが変化すると、僕の彫刻の特徴でもある浅い深い/狭い広いと変化している線のニュアンスがカットされてしまうからだ。それを快諾いただいて、まずは使用した経年変化で荒れた表面を奇麗に磨いていただいた。
さあ、次はいよいよ彫刻。先にラフスケッチを描いてお客様にはご覧いただいていた。左面の真ん中辺りには、ご本人のイニシャル「T」と「H」を飾り文字で入れる。描いてないけど、所属楽団のロゴマークを前側に入れる。
ただ〜し、実際にこのネックを手にとって、下絵を描いていく時点で、どうしてもラフスケッチから変化していく。いつもの事だが、楽器の方から『こう彫って欲しいんじゃ〜!』というアピールがあって、こうした方がいいかな?などと考えて描いていくと変わってしまうのだ。大筋は同じなんだけどね。
さあ次に、楽器に本当に彫る前に真鍮の板等で腕慣らしをする。真っすぐの基本線から右曲がり、左曲がり、右ブーメラン、左ブーメラン、・・・・・・と。その日の調子もあるので、そこで調整が必要。
そして、使う彫刻刀全ての刃を研ぎ直す。この段階で刃の曲面アールと角アールも再調整する。
いよいよ彫り始める。この時のBGMも重要で、昔はキース・ジャレットのケルン・コンサートをお供に彫る事が多かったが、最近はSalt Of The Sound等静かな曲を流しっぱなしにしている。これで集中度が変わるので重要なのだ。
彫り終わった後は、石井さんに預けた。仕上げバフをかけて、ピンクゴールドプレートメッキの後、さらに音が良く鳴るように仕上げをしてくれているらしい。コルクもマウスピースに合わせてもらって、ばっちり仕上がった。
彫刻の出来はまずまずかなあとは思うが、評価はお客様次第。楽器の絵柄として奇麗に彫れたかどうかという事と、所有者にとって特別な意味を持つ存在になったかどうか、もっというと感動を呼び起こす力があるかどうか、という事だ。
後日、お客様から連絡をいただいた。凄く喜んでいただけてほっとした。イニシャルの飾り文字は右面に移動したし、ついでに花びらが散ってみたり、それがつい遊び心でハートマークになっていたりしてしまうのだが、それも好評で良かった。
所属の楽団のいろんな楽器の方が見学に来られて、特にホルンやフルートの女性から好評だったとの事。ありがたや!